シリーズ 日プロ崩壊への軌跡 2 「猪木除名!前編 : 何故 猪木だけが裏切られたか?」

 

さて、猪木を中心とするクーデター派は会社に会計士でありアントンKKの社長であった木村昭政なる男を日本プロレスの経理監査役にとして送り込み、会社のずさんな経営を調査させそれを足がかりにクーデター実行の目前までこぎつけた。しかし猪木の独走ともとれる行動に危惧を抱いた男がいた。他ならぬジャイアント馬場である。猪木とは正反対に慎重派である馬場は猪木の強引なやり方に難色を示したのである。猪木派の強引なやり方に疑念を持った馬場は46年12月1日巡業先の京都で猪木派であった上田馬之助に「猪木の行動は強引過ぎないか?お前猪木の真意を知っているんじゃないのか?今なら遅くないすべてはなしてみろ!」元来気の弱いといわれる上田は猪木派の野望を馬場にすべて話したというのが定説になっているが、一説には改革の起案者である自分が改革後の役員候補になっていなかったのを不服としての裏切りともいわれる。

 

 

猪木とブレーンの木村氏。木村氏の介入で馬場と猪木の結束にひびが入る。

 

選手会は当初、クーデターを行動に移した後は、ほとぼりが冷めるまで芳の里を社長にとどめておき、馬場、猪木が副社長、重役となり会社の健全化に勤める。という程度の改革計画しか持っていなかったようだ。しかし猪木の取り巻きである木村氏以下のブレーンは一気に猪木を社長に祭り上げ、木村を副社長に据えて日本プロレスの経営権を手中に収めようと目論んでいたようである。これはもはや改革ではなく乗っ取りであると考えた馬場は12月3日「猪木抜きの」選手会において猪木派の計画を上田とともに暴露、連判状の無効を提案し、自らも責任を取り選手会長を辞任する。この裏では馬場が猪木に借金を申し出ていた3000万円の借金をクーデター派の動きに感づいた会社側が肩代わりしたため馬場は猪木に同調する必要がなくなったので猪木一人を悪者にして自らの保身をねらったという門茂男氏の説もある。

しかし1994年12月10日 産業経済新聞朝刊【戦後史開封】ではこの様な記述がある。

『芳の里によると、ある幹部をやめさせてくれという猪木からの要求を受け、徹夜の幹部会議の末、問題の幹部の退任は決まった。猪木は「だらけきっていた日本プロレスを改革しようと思っていただけ。われわれがリングで血と汗を流して稼いでいるのに、幹部が金を無駄遣いしていた」と言う。改革案には当初、馬場を含めて若手の多くが賛同していた。 だが幹部会議のあと、帰途についた芳の里の車を馬場が追ってきた。馬場は「今日までは猪木と協力していたが、今後は行動を共にしない」と宣言したという。そして数日後、ある若手から手紙が芳の里に届いた。猪木の乗っ取り画策の“事実”を書き連ねた告発文だったという。「猪木をとるか、若手全部をとるかで、猪木を除名するしかなかった」と芳の里。』

つまりこの説では猪木が芳の里に不良幹部の追放を直訴していた事になるが、猪木・馬場ともに、芳の里も追放リストに載せる事で合意していたという説もあり、この辺の事実関係は非常に曖昧である。

選手会の除名決議を察知した猪木は芳の里の宿泊先に飛んでいき「今回の事は私が悪かった。社長のあなたを出し抜いて、この様な行動を起こした事をあやまりたい。」と土下座に及んだ。芳の里はその言葉を聞き「会社のために良くやってくれた。何も心配せずに今まで通り頑張って欲しい。」と猪木にいったと言う。しかしこの約束は当然のように反故にされる。

大木金太郎選手会長代行は12月6日臨時選手会を招集し猪木の選手会からの除名を提案。山本小鉄だけが反対票を投じたものの圧倒的多数で猪木の除名は決議される。この時猪木除名を強硬に訴えたのはミツヒライ、グレート小鹿の両名であったと言われている。大木はその場で芳の里に猪木の出場停止をしなければ選手会員は試合に出場しないと言う決議書を提出するが、シリーズ途中と言う事もあり、「このシリーズだけは猪木出場を認めてくれ、シリーズ後に猪木の追放を実行する」と選手会に確約する。険悪なムードの中で行われた翌7日の札幌でのインタータッグ選手権試合ではBIのコンビネーションは噛み合わずインタータッグはファンクスの手に渡る。

 

 

 
小林外科に入院した猪木。裏では日本プロによる脅迫があった。

 

さらに3日にクーデターが露見して以来「このシリーズのタイトル戦は潔く負けてタイトルを気持ちよくおいていけ、もし勝つような事があれば頭に血の昇った若い者がお前を袋叩きにしてしまうぞ。」というような脅迫を受けた猪木は最後の抵抗を見せようとしたか、8日に帰京し小林外科医院に入院、急性尿結石と診断される。猪木は妻の美津子に休場願いを日本プロの事務所に届させるが、日本プロはこれを幸いとばかりに猪木の無断欠場とマスコミに発表、代打に坂口を挑戦者に立てるのであった。

日プロ崩壊への軌跡2後編につづく・・・