ボブ・バックランドのレッグ・ストレッチャー

2002.4.15 update

 

 
バックランドが単なるテクニシャンではないことを証明する殺し技。

 

 WWWFの本拠地であるNY地区のファンの好むプロレススタイルは、サンマルチノに代表される殴る、蹴る、叩きつける、締め上げるという野生剥き出しのパワーファイト、もしくはアントニオ・ロッカ、ペドロ・モラレスに代表される立体殺法であった。ストロングスタイルのテクニシャンは全くといっていいほど受け入れられない。NWA世界タイトルを手にする前のジャック・ブリスコがNY地区に修行に出た際もほとんどメインエベントに登場することはなかったというし、アントニオ猪木よりもストロング小林の大味なファイトスタイルが大いに受けたというテリトリーである。

 そんなNY地区で80年代にWWWF王座に君臨したのがボブ・バックランドであった。確かにパワーファイターではあったが、本当の持ち味はアマレスのテクニックに裏付けたれたストロング・スタイルのプロレスだったといえる。ボブは大体の場合、アトミック・ドロップやジャンピング・パイルドライバーといった見栄えのするフィニッシュを使ったが、時には当時としては信じられないようなサブミッション・ホールドをフィニッシュに使った。バディ・ローズをチキン・ウィング・フェースロック(UWFがブームになる以前)でギブアップさせたのは有名であるが、’79年にレッグ・ストレッチャーという誠に地味なサブミッション・ホールドでスパイロス・アリオンをギブアップさせたことはあまり知られていない。しかもMSGの桧舞台でだ。

 上の写真(’79年4月フロリダでのケン・パテラ戦)を見ればわかるように、このレッグストレッチャーという技は素人が見るとたんに足を引っ張っているようにしか見えない。日本でも猪木戦で披露したが、このようにファンにアピールしない殺し技を派手なファイトを好み、寝技に理解を示さない(サンマルチノは片逆エビ固めの際も腰を落とさなかった)MSGのファンの前で、フィニッシュに使ったバックランドはさすがゴッチの愛弟子。シュートの遺伝子は確実に引き継がれていたといえよう。

 

 

「フッカー」と呼ばれるロビンソンも使っていた!

 

 この技をフィニッシュに使ったレスラーは少ないと思うが、調べてみると自他ともに「フッカー」と認めるビル・ロビンソンが使っていた。’79年オマハでのボビー・ダンカン戦でフィニッシュに使っている。このダンカンの苦悶の表情を見よ!素人目に見れば左脚を固定して、右足を引っ張っているだけのように見える。果たしてどこが決まっているのか?皆目わからない。しかし、ダンカンは悲鳴を上げているのである。週刊ファイトの井上編集長が「(フッカーというのは)ゴッチがいっていたけどわからんように痛めつけると。その時は歩いて帰れる。しかし二日後には死んでしまうという技を持っているのがフッカーなんだよな。」(プロレスファンよ感情武装せよ!ターザン山本著より)と言ったが、このレッグ・ストレッチャーのような技を使えるレスラーをフッカーというのだろう。まさに「殺し技」と呼ぶにふさわしい技である。