ニック・ボックウィンクルのスープレックス

2000.3.5 update

 

 
     
後方からのショット   真横から。このあと身体をそらせる。

 

筆者が実際に見たかったレスラーの一人が「AWA王者以前の」ニック・ボックウィンクルである。AWA地区に転戦する前、ハワイや太平洋岸地区で活躍していた当時のニックだ。当時の雑誌には「あまりにもストロング・スタイルに固執するあまり人気が出ない」といった内容の記事もあるほど当時はストイックなレスリングをしていたようだ。

それを物語るのが当時の彼の必殺技「スープレックス」である。当時のゴングには「人間風車」と紹介されたが、ロビンソンのスープレックスとは明らかに違う。ロビンソンの人間風車はリバース・フルネルソンの体制からなげるが、ニックの人間風車は首と腕を決めてなげている。更に投げる際のフォームもロビンソンのように見栄えのするブリッジを利かしたものではなく、ぐいっと相手を持ち上げておいてから右側に身体をひねりつつたたきつけている。首を完全に決められていることもあり、かなり受身は取りにくい。後に前田明がハーフ・ハッチとして使ったスープレックスである。

上の2枚の写真は45年の第2回NWAタッグ・リーグ戦に参加した時のショットだが、エースと目されていたアーニー・ラッド&ロッキー・ジョンソン組を抑えて、ジョニー・クインとのコンビで決勝まで残ったのは、やはり彼の実力がそうさせたのであろう。ボビー・ヒーナンにであって綱渡りの王者というギミックに甘んじていなければ、彼は70年代の伝説になっていたかもしれない。

 

 
     
マイク・スターリングスのスープレックス。強引に投げ捨てる感じ。   レイ・グレーンの豪快なスープレックス。

 

さて、この技はアマレスの投げに、グイッと持ち上げるということでニックが「見せる」要素を加えたわけであるが、アマレススタイルのままこのスープレックスを使ったのがマイク・スターリングスである。ニックのように持ち上げることはせず、強引に引っこ抜いている感じ。足の感じから見てニックとは違い左側に投げすてるようだ。非常にスピーディーな印象を受けるが、投げてダメージを与えるわざと言うよりもグラウンドにつなげるための投げのような感がある。

もう一枚の写真はフランス系カナダ人のギレス・ポワゾン。彼もこのスタイルのスープレックスを得意としていた。彼の場合は高く持ち上げ、体のそらし方も十分。パワフルな印象は受けるがスピード不足だったと思われ、フィニッシュホールドとしてはいささか迫力がない。このスタイルを説得力をもたせてフィニッシュに結びつけるのは至難の業であるということがよくわかる。