ボブ・ループのショルダー・バスター

2002.2.22 update

 

 
     
あまり見栄えのしない技だが・・・   後方からのショット。馬場の表情に注目。

 

 猪木のNWF防衛戦の歴史のなかで最も苦戦したのは53年のペドロ・モラレス戦(あまりの劣勢のためかノーテレビ)と54年のボブ・ループ戦であったといわれる。ループとの試合はCSで再放送されたので、筆者もビデオを入手し実際に見た。試合内容はループが終始グランドレスに持ち込み、猪木は全くペースをつかめぬままマネージャーのグレート・マレンコが乱入して反則負けというものであった。苦戦というよりも試合スタイルがかみ合わなかったとたとえたほうが的確と思われるが、グラウンド・レスリングの力量に関してはループは明らかに猪木を凌駕している。猪木がまるで人形のように転がされているのである。しかし、これが延々と続き、ループが出した唯一ともいえる大技がこのショルダー・バスターであった。

 ショルダー・バスターは普通痛め技に使われるがループはこれを唯一のフィニッシュホールドとしていたようで、このシリーズではこの技で白星を重ねている。さかのぼること5年。49年の夏にループは全日本プロレスに2度目の来日を果たしているが、このときの開幕戦のタッグマッチでなんとジャイアント馬場からこの技でフォールを奪ってしまっている。当時のループはまだまだ中堅でミル・マスカラス、ダニー・ホッジ、ジョージ・スティールにつぐ4番手あたりの扱いであった。そのループが日本側の大将である馬場からフォールを、しかもショルダーバスターという地味な技で奪ってしまったのだから、これは大番狂わせである。おそらくループという男、テレビ中継のタイトルマッチで延々とグラウンド・レスリングを展開したり、開幕戦で格が1枚も2枚も上のエースの馬場をフォールしてしまったり、かなり空気が読めない「天然男」だったのであろう。サンフランシスコやフロリダで活躍したあとNWAに反旗を翻し独立団体を設立したはいいがマット界の孤児となり、最後は髪の毛を半分そり落としたパンクスタイルのペイントレスラーに落ちぶれてしまった。

 

   
         
業師ハリケーンも多用していた。   この抱え方のほうが危険度が高い。   日本ではキム・ダクが多用。

 

 このショルダーバスターの使い手として知られるのがハリプス・ハリケーンである。ボディスラムにいくように抱えて相手の肩をひざに落とすのであるが、この場合相手の首を抑えることで衝撃を調整している。技をかけられているレスラーも相手の肩をつかむことによりアクシデントが発生する確率を低くしている。日本人ではキム・ダクのタイガー戸口が得意としていた。しかし、ザ・キラーが公開したスタンプホールドのように抱えて相手の方を打ちつけるスタイルは胴を抱える位置で衝撃を調節するわけだが、これは非常に危険である。汗で滑ったら衝撃の調節どころではない。実際、ボブ・バックランドが猪木にこのスタイルでスルダーバスターを敢行したものの、汗ですべり猪木は首筋からひざに落ち、さらに後頭部からマットにたたきつけられるという、危険なシーンが見られた。そんなこともあり、このスタイルのショルダー・バスターを使うレスラーは非常に少なかった。

 この技はもともと使うレスラーが少なく、ハルク・ホーガンが得意にしていたのを記憶しているが、その後の使い手はちょっと思い出せない。しかし、あまりにも地味な技なだけに、復活への道は険しいように思われる。