類似技研究その4 〜 回転足折固めと後方回転エビ固め

2001.10.24update

2003.11.23情報追加

 

掲示板で大盛り上がりのローリング・バック・クラッチとジャパニーズ・レッグ・ロール・クラッチ。決まったときの形は同じだが、そのプロセスが違うという、似て非なる技である。ではまずローリング・バック・クラッチから。この技は日本では後方回転エビ固めと呼ばれている。やはりこの技の使い手として有名なのは魔術師パット・オコーナーである。そして日本ではマイティ井上が使い手。この技は相手のバックを取りロープに押し付け、反動を利用して後方に半回転。そのまま腰を落とすパターンとブリッジするパターンがある。

 

       
安定感のあるオコーナー  

まずバックをとりロープ
に押し付ける

 

その反動で相手を抱え
込み後方に回転

 

ここで腰を落とせばオコ
ーナースタイル

 

ブリッジしてフォール

 

さて、この類似技がゴッチ、猪木、藤波へと受け継がれたジャパニーズ・レッグロール・クラッチ・ホールドである。ゴッチが日本の記者にこの技の名を聞かれ、日本のファンに敬意を表してこの名前をつけたといわれている。日本では回転足折固めと呼ばれることが多いが、日本式回転エビ固めや半回転エビ固めなどと表記されることもある。

この技はローリング・バック・クラッチとは違い、うつ伏せになった相手の脇に足をねじ込み、そのまま横に回転しエビに固めるというものである。藤波の連続写真を見ていただければよくわかるだろう。

 

 

     
ロープに振った相手をレッグシザース   うつぶせに倒れたところに・・・   脇に自分の足をねじ込む   そして横に回転

 

     
仰向けにひっくり返して・・・  

エビに固める。このままフォールに持
ち込む場合もあり

  藤波はそのままブリッジの体勢へ  

決まった形はローリング・バック・クラ
ッチとまったく同じ

 

おそらく日本人でこの技を最も多用したのは藤波であろう。その弟子とも言える西村が今もこの業を伝承しているのは非常にすばらしいことだ。で、最後にこの技の呼び名であるが、ブリッジするしないにかかわらず、後方回転はローリング・バッククラッチ、横回転式はジャパニーズ・レッグ・ロールと呼ぶのが正しいと思われる。しかし大体においてジャパニーズの方はブリッジで固めることが多かったように記憶している。さて、この後方回転エビ固め談義でも貴重な発言をいただいた存英雄氏より、熱のこもった論文をいただいたので、ノーカットで公開させていただく。

 

・・・(前略)本日はロビンソンの資料本を送る話しがメインでした。なぜ、その本を慌てて博士に送ろうとしているのか?それは私が今「話題のJLはゴッチの考案した技だと言われているが、じつはそのルーツは、ロビンソンの国際プロ初期の得意技である半回転エビ固めではなかったか!」という説を頭の中に巡らせているからです。

しかしながら上の説は、なんの物証もない、状況証拠の積み重ね。まるで「邪馬台国論争」で“陸行を水行と読み替えれば、邪馬台国は九州”とか、“北北西と記録に書いてあるのは、おそらく北北東の間違いなので、邪馬台国は畿内”などと主張する歴史学者のようなもの。では、そんな根拠薄弱な我が妄説をお聞きくだされ。

JL異聞「ゴッチのジャパニーズレッグロールのルーツは、ロビンソンの半回転エビ固めだった!?」

考察および推論執筆:by存 英雄

◆最初にお断りしておきますと、私はロビンソンの国際プロ来日初期の頃の得意技である「半回転エビ固め」が、どのような技であったのか?を見ているはずなのに、正確には記憶しておりません。第3回IWAワールドシリーズ決勝戦(の一部)であるゴッチとロビンソンの対決はTVで観戦した記憶はあるものの、覚えているのはゴッチが3本目にはなったバックドロップのみ(印象に残った理由は当時子供の私には、神様が鉄人の技を盗んだ!ように見えたから)。

◆   にもかかわらず私は、上の試合でゴッチがロビンソンから半回転エビ固めでフォールを取られ、研究熱心なゴッチがそのときのロビンソンの妙技をさらに改良し、Jレッグロールを完成させた。さらに飛躍すれば「日本でのロビンソンの試合をヒントに体得した技だから、ゆえに名称をジャパニーズ・レッグロールとゴッチが名付けた」とも考えられるのではないかと、一人で自分の推理に酔っているところです。それでは私なりには根拠ありとする、我が迷推理の過程を聞いてください。

◆    最初にヒントをくれたのはミータさんでした。ミータさんがJレッグロールの類似技として「ロビンソンが鶴田や戸口をフォールした、あの技は?」と掲示板に書き込まれた後、私はそれについて「あれは和名を、足がらみエビ固めor足掛けエビ固めと言います」とレスをさせていただきました。その後、念のためプロレスアルバム/『Mr.プロレス=レイス ニック ロビンソン』の巻でロビンソンの“足掛けエビ固め”の写真を探してみると、確かに同書のP59・センター左に写真(写真A)は掲載されていたのですが、そこには思いきり間違ったコメントが付けられてあり、何と「B・バックランドやタイガーマスクがフィニッシュとして見せる回転足折り固めは、ロビンソンが日本で初公開し、最初は“半回転エビ固め”などと呼ばれた」との記述が・・・。

 

 
写真A   写真B

 

◆    “足掛けエビ固め”とJレッグロールは、相手に技をかける経緯がまるで違うため、本来は混同する可能性は少ないものです。なにしろ“足掛けエビ固め”は「伏線としてダブルアームバーを仕掛け、相手が足でこちらの顔を蹴飛ばしに来たら、しめたモノとばかりにそこに上から自分の足をかぶせてフォールしてしまう」いわばトラップ系の騙し技ですから。

◆   ただ、技が決まった瞬間だけを見れば2つの技はチョコッと似ていないことも無いですねー。最後にブリッジをせずにマットに寝転んだ姿勢で相手を押さえ込んでいる不器用なJレッグロールに、“足掛けエビ固め”は場合により・・・そう見えるかもしれません。おそらく先ほどのミスコメントを書いたライターは、フィニッシュ時点の写真だけを見て、こんな風に誤解をしたのでしょう。まぁそれでも自分の背中をマットにつけているJレッグロールなど、有りえないのはコレ常識と思いますが。

◆で、ここからさらに私の悩みが始まります。「このコメント、写真に対するキャプションとしては間違っている。しかしあえて写真との不整合に目をつぶれば、文章に書かれた内容自体は正しいのでは?ロビンソンの半回転エビとJレッグロールは、同じ技だったのかもしれない」というのが、その悩みです。

◆そこで今度は、同書の別のページを目を皿のようにして見てまわり、ロビンソンの半回転エビの写真を探してみると、おお!ひょっとしてコレがその途中経過のショットではなかろうか???と思われるものが写真Bであります。

◆    そこに写っているのは「藤波や猪木のJレッグロールのように自分は立った体制で寝かせた相手の両腕に脚を引っ掛け、敵の体をひっくり返しにいくスタイル」ではなく、「自分もマットに体をつけた体制で同じような“ひっくり返し”を実行せんとする」ロビンソンの姿でした。おぼろげながらの記憶では、これがロビンソン流で、寝技の攻防や相手と体を密着させた状態から隙を突いてスルッと入るのが特徴の“半回転エビ固め”だったのだと思えてきました。

◆    なんとしても、この写真Bの続きのショットが掲載されていないのは惜しいのですが、見れば見るほど「この先はひっくり返してブリッジしてクルクルとフォール」に移行する技に感じられます。こういう入り方ならば“回転エビ”ではなくて“半回転エビ固め”と呼ばれたことも、何となくうなずけます。

◆で、いよいよ次に思い出した点が「ロビンソンは、この技でゴッチをフォールした実績があるはず」というもの。この試合の詳報はスグ昭和57年発行の「ゴング増刊 プロレス名勝負DIGEST50」の中にあるのを発見できました。しかししかし、メチャ惜しいことに見開き2ページの特集には(この“昔のドリームマッチ/神様VS人間風車”だけを特集した記事なのに)、半回転エビの写真が載っていません。はあ〜嘆息・・・。

◆    とまあ長らくお付き合いをいたただきましたが、最後に上の記事から2本目のフイニッシュシーン(文章のみ)を引用しまして、我が論考の状況証拠提出を終える事にしましょう。これはロビンソンがゴッチから原爆固めで1本目を先取され、起死回生の2本目のフォールとなるものです。→引用「2本目は〜(中略)逆エビを狙ったゴッチの胴にロビンソンの両足が巻きついて、あっという間に半回転エビが決まっていた。ゴッチはロビンソンの人間風車を警戒するあまり、ロビンソンの足ワザ(原文ママ)を忘れていたようだ」ハイ、味のある菊地 孝さんの名文です。

◆どうでしょうか?ここまでに記しましたように、きちんとした記録写真はありません、すべては状況証拠です。でも「この技=半回転エビが“立った状態で仕掛けるのではない旧タイプの密着式のJレッグロール(でも決まった時の形は同じ)」であると推論するための証拠としては、充分ではないでしょうか?そして、ここから冒頭に記しましたように「この時にロビンソンにフォールされた体験をもとに、ゴッチが同じフォール形態に行く過程で派手なアクションをプラスした技」としてJレッグロールを改良考案した・・・という推理が頭に浮かぶのは、私の場合は、とても自然な事でした。なにしろ私、証明しようのない推理に遊ぶ行為こそ、ロマンと考える“お気楽な性質”なものでして。

◆    えっ、なんですか。「ゴッチともあろう人が、そんな見た目の派手さ優先の技を考案するのはオカシイ!」と、そうおっしゃるのですね?いえいえどうしてなかなか、ゴッチという人は「自分を偉大なテクニシャンに見せてくれる効果が大きい場合は」けっこうアクションの大きい技を使って、観客を楽しませてくださるタイプのレスラーだと思いますよ。たとえばゴッチの原爆固め!あれこそ、最大のビッグアクションでこなすゴッチの凄い見せ技ですから・・・。

END

 

なるほど、意外なといっては失礼ですが、意表をつくご意見であります。ジャパニーズを日本で初公開したのがロビンソンだったとは知りませんでした。で、ロビンソンが、実際にジャパニーズ式のエビ固めを決めていたのか?を資料をくって検証しました。まず写真Aですが、これは「伏線としてダブルアームバーを仕掛け、相手が足でこちらの顔を蹴飛ばしに来たら、しめたモノとばかりにそこに上から自分の足をかぶせてフォールしてしまう」と存氏がご指摘されたように、回転はいたしません。筆者もプロレス狂の友人にこの技を教えてもらいましたので間違いないでしょう。(友人が考案したはずはないですから)ロビンソンが見事にブリッジしている写真を探してみると・・・ありました!

 

ロビンソンのつま先の位置に注目!

 

’70年4月号別冊ゴングにの綴じ込み付録「人間風車の7大必殺技」なる企画に使われていた写真です。名称は単に「クラッチホールド」であります。BBSで存氏が指摘されたようにジャパニーズは技をかけた選手のつま先が相手の方に、ローリング・バック・クラッチではわきの下、もしくは肩より背中側に着地いたします。このロビンソンの写真はつま先が肩より上の位置に・・・つまり、藤波の連続写真に見られるような過程を踏んだ立派なジャパニーズ・レッグロール・クラッチなのであります。これでロビンソンがジャパニーズを使っていたことは実証されたといってよいでしょう。

ただ、ゴッチがロビンソンの技を盗んだ説には疑問があります。ロビンソンの初来日は昭和43年、しかしゴッチはそれまでに2度来日しており、その2度の来日でジャパニーズを公開していなかったかの検証が残念ながらなされておりません。筆者の記憶にあるゴッチが横回転式の名前を聞かれ、「ジャパニーズ・・・」と答えたというエピソードは日本プロ来日時の物だったと・・・。皆様の追加情報に期待します。

 

追加情報

その後、手持ちのプロレス雑誌を何気なく見ていると、43年6月号のプロレス&ボクシングのイラストエッセイ「平嘉門のワールド・アラカルト」の中に、右のようなイラストがあった。ワールドリーグ戦に特別出場していたカール・ゴッチ(当時はコーチとして日本に滞在)のテクニシャン振りが紹介されているが、その中に明らかにジャパニーズ・レッグ・ロールと思われるカットがある。ゴッチは少なくとも43年4〜5月にはこの技を日本で披露していたのである。くしくも43年4月はロビンソンの初来日と時を同じくしているのである・・・。

 

 

追加情報パート2(2003.11.23)

今回はビル・ロビンソンの半回転式エビ固めの連続写真を発掘!正確には横半回転式エビ固めと呼ぶべきでしょうね。