ホースト・ホフマンのサイド・スープレックス

2002.10.9 update

 

 
     

A:馬場の巨体も軽く投げてしまう。

  B:リストロックに捉えられた状態で抱えて投げる!

 

     
             

これがリバウンドを受け止めてのサイドスープレックス。最後まで相手をホールドせず放り投げている点に注目。これは危険だ。

 

 今回サイド・スープレックスを取り上げるに際し、正統派のジャンボ鶴田のサイド・スープレックスを取り上げるか、ホースト・ホフマンの変則的なサイド・スープレックスを取り上げるか、大げさだが結構悩んだ。しかしここはひとつあくの強いホフマンを選んだ。鶴田ファンの皆様、ごめんなさい。

 「腕が回ればどんな体勢からでも投げてみせる」といったのはローラン・ボックだが、ホフマンは「片手でも相手を持ち上げればサイド・スープレックスで投げてみせる」とでも言いそうなぐらいバリエーションに飛んだ投げ方を披露している。そもそもサイド・スープレックスの「サイド」と呼ばれるゆえんはふたつあると筆者は推察する。まず一つ目は写真Aのように相手を自分の体の「サイド」でホールドし、(斜め)後方に投げるという場合の「サイド」。これはジャンボ鶴田が得意とした一般的なフォーム。もうひとつは写真Bのように相手の抱え方は関係なしに、パワースラム風に自分の体の「サイド」に叩きつける場合の「サイド」である。ホフマンはこの両方のスタイルを使いこなしていた。

 ホフマンはこれに加え、相手をロープに振ってリバウンドしてきたところをキャッチして放り投げる、パワースラムの原型とも言うべきサイド・スープレックスも得意としていた。連続写真の犠牲者はグレート草津である。これを見ていただければわかるようにホフマンは草津をホールドすることなく、上体をそらしつつ草津を抱え上げそのまま右手で草津の巨体をはねあげ倒れこんでいる。草津は無残にも左肩からマットに落下。一つ間違えれば相手を負傷させてしまう、ある意味パワースラムよりも危険な技である。ボックのパートナーとして来日したミッシェル・ナドールもこの技で長州力をKOしている。

 ホフマンはこれほど強烈な技を持っていたが、あまりにも地味だった。ある人は「ホフマンは巧過ぎてそれが逆に迫力を半減させていた」という。これに加え、ビル・ロビンソンをいうスターがさきに上陸していたため、日本ではブレイクし損なってしまい、とうとう日本に姿を現すことはなくなってしまった。ホフマンは常にロビンソンを比較されていたようだ。このサイドスープレックスの日本名を見てもそれはわかる。写真Bに付いたキャプションは横投げ式人間風車であった。

 

     
             
剛竜馬はホフマンの見てリバウンド式サイドスープレックスの極意を得たのだろうか?

 

   
         
初期のロビンソンは本当に素晴らしい。   ジャンボのサイドスープレックスも力強い。   レイガンスの変則サイドスープレックス

 

 「門前の小僧習わぬ経を読む」というが、ホフマンのリバウンド式サイド・スープレックスをリングサイドから見つめることにより盗んだのが剛竜馬であった。剛は凱旋帰国の第一戦でこの技を見せている。これが剛のトレードマークになるのでは?といわれたようだが、結局は定着せず。これといった必殺技を習得できなかったことが、素質は最高といわれた剛が超一流になれなかった原因であったことは間違いない。

 この技を日本で初公開したのはおそらくビル・ロビンソンだと思われる。ロビンソンはTBSスタジオでの公開練習でサイドスープレックスを披露している。ロビンソンは欧州選手権でも豊登をこの技でぶん投げているが、当時のプロ&ボクはこう解説している「反り身になって相手を後ろへ投げ倒す反り投げ。ロビンソンは時折り柔道技を披露する」とある。ロビンソンの場合の「サイド」は相手の体の「サイド」をホールドして後方に投げるといったほうがよく、相手のわき腹を自分の腹に密着させるようにホールドして後方に投げる。その際、相手は単に1回転するだけではなく、反り返ったロビンソンの胸の上でマットと水平に90度回転してからさらに垂直に回転しマットに叩きつけられる。これは見た目にも非常に豪快である。

 ロビンソンは50年代に入ってからはこのスタイルではなく、ジャンボがよく使っていた、自分のわき腹と相手のわき腹を密着させる形でホールドして後方に投げ捨てるスタイルに切り替えている。このスタイルはもっともポピュラーだが、高さ、迫力で群を抜くのはジャンボ鶴田であろう。ジャイアント馬場が田園コロシアムでのインタータッグ選手権でこの技一発でドス・カラスをKOしている。

 さて、最後に紹介するのがブラッド・レイガンスのサイド・スープレックス。これはサイド・スープレックスの項に掲載するかどうか議論が分かれると思うが、一般的にサイド・スープレックスと呼ばれていたのでここで紹介した。レイガンスの場合はベアハッグの要領で胸を合わせて(今風に言うとベリー・トゥ・ベリー)相手をホールドし横に投げ捨てる。これは平成に入りレッドブル軍団と呼ばれたソビエト(当時)からやってきたレスラーが多用していた技だ。ある意味最もアマレス色の強い投げ方といえるかもしれない。(ロビンソン式もアマレスの俵返し風であるが。)レイガンスはこれをフィニッシュにしていたが、ビジュアル的なスパイスとして相手をロープに振ってリバウンドしてきたところを捕獲して投げていた。このレイガンスもホフマンと同じく「地味」というイメージが付きまといレスラーとしては大ブレイクするとまでは行かなかった。この技は使うものに「地味」というイメージを植え付けてしまう、ある意味レスラー泣かせの技だといえるかもしれない。